「趣味は人間観察です」についての考察

「趣味は人間観察です」と言う人に会ったことが何度もある。

そういう場合、わたしの反応は二択だ。

「そうですか。わたしは深呼吸が趣味です。」と相手のレベルに近づける、

あるいは

「そうですか。わたしの趣味は家内の作ったポーチドエッグをニコンで撮影することかなあ、晴れた日曜日の朝にね」とスラスラと白髪交じりに答えたあと、矢継ぎ早に村上春樹の話を始める。

 

だが、内心はいつもざわついていた。

 

人間観察が趣味と言われるたびに、

「それはどのレベルなのか」

「週にどのくらいするのか」

「わたしも興味があるんですけど、どこから始めるのがいいでしょうか」など、

前のめりになって聞きたい質問がいくつも湧いてくるのだ。

しかし、なんとなくマナー違反な気がして、今までぐっとのみこんできていた。

 

だが、もしかしたら、私が変に考えすぎていたのかもしれない。

「人間観察」は、「ゴルフ」とか「ピアノ」とか「レコード収集」のように、私が知らないうちにもう当たり前に趣味として成り立っていて、相手はその話をどんどん膨らませて欲しがっているのかもしれない。

 

「趣味としての人間観察」とは、いったいどういうことなのだろうか。

 

 

 

ゲーム的なものかもしれない。

一対一、もしくは複数のグループで、初めて会うメンバーの人となりをいかに詳細に分析できるかを競う。

 

 

あるいは、バードウオッチングみたいなものかもしれない。

人間を様々なタイプ(例えば、「朝型」「夜型」「酔うと自虐が過ぎる」など)に分類し、新たに出会うタイプに名前を付けたりする。

 

アロマテラピー岩盤浴のように、主に癒しを目的としたものかもしれない。

「毎月第13日曜日開催!

カフェ店員のさりげない気遣いに優しい気持ちになったり、老犬の人生を想像してホッコリしたり。明日のキラキラにつなげよう。」

 

勉強して身につけるスキルみたいなものかもしれない。

「人事部への異動に備えて」

「オープニングスタッフの採用で参考にしたい」などさまざまな理由で人気です。

 

 

 

先日、「趣味は人間観察」という女性にまた出会ったので、仮説をひろげながら聞いてみた。

彼女はめんどくさそうにしたのち言った。

「いやいや、だから例えばカフェにいるときとか電車に乗っているときに、他人の格好とか様子を見て、このひとはどういうひとなんだろうなあ、とか、おしゃれしてるけどこれからデートかなあ、とか想像するんですよ~」

 

わたしは即座に立ち上がった。そこに一瞬のひるみもなかった。

えっ、という驚いた顔をする彼女を見下ろし、一息吸ったらもう止まらなかった。

 

 

 

「あのね!

そういうことなら皆やってるよ!

全・人・類がやってるよ!

要するにアンタ、趣味なんてなくて毎日何も考えずにチンタラ生きてるってだけなんだろう!

つ・ま・ら・な・い女だ!」

 

 

 

ようするに、「趣味は人間観察です」と言われることは、「悩みがないことが悩みです」と言われるのと同じくらい話が続かないので、せめて「朝起きたり食べたりトイレ行ったり夜寝たりしてます」と答えてほしい。